⏬MUSE VOICE「かけはし特集号」より
コロナ禍にいったん中止となっていたドキュメンタリー映画『かけはし』第三章ですが、昨年広島より撮影が再開され、来年末まで制作が続きます。
弊社ミューズの里は、「いのち・平和」をテーマに国際社会の平和づくりに貢献できる媒体をつくる事業を目指して2008年に設立いたしました。「異文化間の相互理解」を柱の一つとしています。会社を独立後、ミューズの里の前身となるクロスカルチャープラザ(屋号)を立ち上げて活動していた頃、都内の様々な日本語学校の先生方からのご要望で「〜50か国5000人が集う〜日本語語学留学生の祭典」の企画運営をさせていただいたことがありました。
その頃はまだ、1983年に当時の中曽根首相が掲げた「留学生受け入れ10万人計画」がなかなか達成されずにいた頃でもありました。日本語学校生の多くがその後に日本の大学や専門学校に進学するにもかかわらず、留学生とは区別されて就学生と呼ばれ、通学定期券の適用もなされていませんでした。そうした状況下にあって、日本語学校に通う学生の学習環境の向上のために、その存在と正しい姿を社会に伝えたいという日本語学校の先生方の熱い思いから生まれたイベントでした。
その頃、異文化コミュニケーション誌を創刊して毎月発行しながら、日本に滞在する外国人と日本人の相互理解につながる交流の場づくりをしていた私は、さっそく国際交流に関心を持つ人々に呼びかけながら企画書をつくり、誌面にコラムを書いてくださっていた元朝日新聞編集委員の谷久光様に見ていただきました。当時、故平山郁夫画伯が主宰する(財)文化財保護振興財団の専務理事をされていた谷様がお声をかけてくださり、運営ボランティア組織の実行委員会の会長に平山郁夫画伯がお名前を連ねてくださることになりました。国籍・民族・性別・職業・世代を超えてみんなで一緒につくろう!と呼びかけた祭典は、今も忘れることのできない思い出の一つです。
そして、そのイベントの参加校の一つが、日暮里にある赤門会日本語学校でした。弊社ミューズの里の第二作目として、2017年に劇場公開したドキュメンタリー映画『かけはし』で描かせていただいた韓国人留学生のイ スヒョン(李秀賢)さんが通っていた学校です。
日本が大好きだったスヒョンさんは、一年間の日本語学校での勉強を終えた後、帰国する前に自転車で日本一周する計画を立ててビザを延長した後、2001年1月26日にJR新大久保駅乗客転落事故で亡くなりました。ホームに転落した日本人を救うために、日本人カメラマンの関根さんと線路に飛び降りて救助にあたりましたが、3人とも帰らぬ人となりました。
スヒョンさんのご両親は、全国から集まった弔慰金を、息子スヒョンと同じように日本と母国の懸け橋になることを夢見て来日するアジアからの日本語学校生のために使ってほしいと願われ、スヒョンさんのお名前の頭文字をとって特定非営利活動法人LSHアジア奨学会が誕生しました。
そして大変嬉しいことに、特定非営利活動法人LSHアジア奨学会発足にあたって平山郁夫画伯が顧問を引き受けてくださることになりました。平山画伯は当時、東京藝術大学の学長をされていて、その間は他の役職にはつかないことになっておられたのですが、特別にお引き受けくださることになりました。初代会長には駐インド大使兼駐ブータン大使・駐中国大使を歴任された谷野作太郎様が就任され、現在は在大韓民国日本大使館公使・駐イスラエル大使・駐インドネシア大使などを歴任された鹿取克章様が会長をされています。新大久保乗客転落事故から20年となる2021年、LSHアジア奨学生は20か国以上の国と地域から1000人を超えました。
それにしても、手弁当の小さな異文化交流活動の頃から、谷久光様が私たちの活動をいつも心に留めてくださり平山郁夫画伯がご協力くださったことに当時はただ喜ぶばかりでしたが、その後に平山郁夫画伯が中学3年生の時に広島に原爆が投下され、体の調子を崩されて死をも覚悟する日々の中で「仏教伝来」が描かれたことを知りました。
日本への仏教伝来の道でもあり、東西の交易と異文化交流の道でもあったシルクロードを連作で描いた平山郁夫画伯の作品からは、「名もない人びとの想いの積み重ねが文明や歴史を形づくる」ことへの想いと共に、深い平和への祈りと平和を愛する心が伝わってきます。シルクロードを旅する中で、内戦や風化によって文化財が崩壊の危機に瀕する姿を目の当たりにした平山郁夫画伯は、文化財保護活動の活動にも取り組まれ、中国の敦煌石窟、カンボジアのアンコールワット遺跡の保存修復活動や北朝鮮の高句麗古墳の世界遺産登録などに尽力され、文化財保護にたずさわる人材の育成や紛争で流出した文化財の保護などにも力を尽くされてきたことに深い感銘を受けずにいられません。
平山郁夫画伯は、2009年に79歳で永眠されました。
現在90歳になられた谷様は、今もお元気で時々あたたかな応援コメントを送ってくださいます。2017年のドキュメンタリー映画『かけはし』第一章&第二章の劇場公開前に、日本記者クラブでの試写会を呼びかけてくださいました。心からの感謝と共に、またお会いできる日を楽しみにスタッフ一同日々精進してまいります。
お二人への深い感謝を胸に、コロナ禍にストップしていたドキュメンタリー映画『かけはし』第三章の撮影を広島から昨年再スタート出来たことはとても感慨深く、第一章・第二章の地道な上映活動も再開させていただきました。
今週10月18日(金)には「平和を望む会」代表の木村画伯が主催してくださり、世田谷の「せたがや がやがや館」にて上映会(一章&二章)が開催されます。上映後には、LSHアジア奨学会授与式にご参加されるために韓国から来日中のスヒョンさんのお母様でご出演者のシン ユンチャンさんと赤門会日本語学校の新井時賛理事長がご挨拶くださいます。
ドキュメンタリー映画『かけはし』公式サイト
https://kakehashi-movie.net/
明日16日は、2024年度LSHアジア奨学会の授与式に取材・撮影で伺わせていただきます。小さな地道な活動ではありますが、これからも上映活動を続けながら『かけはし』第三章の完成に向けて全力を尽くしてまいります。今後とも皆様のご支援・ご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。
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