先月5月21日、G7サミットに招かれた韓国の尹大統領が、日本の岸田首相と共に、広島市の平和記念公園の「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」を訪れ、献花されました。広島への原爆投下では多くの朝鮮半島出身者の方々が被爆されています。日韓の両首脳がそろって追悼される姿を見て、胸が熱くなりました。
37年前、草の根の民間外交プロジェクト「ネバー・アゲイン・キャンペーン」でアメリカの学校や教会で原爆映画を上映するボランティア活動に参加することになり、渡米前、ひと夏を広島で過ごしました。
たくさんの被爆者の方々のお話を聞かせていただく中で、今も忘れることのできない朝鮮人被爆者の方のお言葉があります。
「原爆投下後の生き地獄の中にあっても、差別があったということを忘れないでほしい」。そうおっしゃった後、アメリカに行くことを戸惑っていた私に、「何か重いものを背負って行くんじゃなくて、一人でも友達をつくってくるつもりで行ってらっしゃい」と優しく声をかけてくださいました。深くて大きな心を持った方でした。ヒロシマの心を伝えたいと思いながらも、戦後生まれで被爆体験のない者に一体何が伝えられるのだろうと不安になり、アメリカに行くのをやめようと思いながら迷っていた時でした。ヒロシマの心が何なのかさえわかっていない私を、ものすごく優しい眼差しで見守ってくださり、語ってくださった言葉のあたたかみを今も覚えています。
また、戦後50年(1995年)の時、韓国・中国・マレーシア・アメリカ・ドイツ・スペイン・バングラディシュ・日本の8カ国の若者の家族の戦争体験と共に、これまでお世話になったヒロシマ・ナガサキの被爆者の方々の被爆体験を伝える多国籍出演者による日本語朗読劇を企画・プロデュースし、みんなを連れて広島に行った時のこともいまだに忘れることができません。出演者には、自分が朗読する被爆者の方に会っていただきたいと強く思っていました。韓国人留学生だったクォンさんには、沼田鈴子さんの被爆体験を朗読していただくことになっていたので、広島では、映画「アオギリにたくして」のモデルともなった沼田さんに被爆体験を語っていただきました。
その当時はまだ、韓国人原爆犠牲者慰霊碑が平和記念公園の中になく、川を隔てた通り沿いに建っていました。折り鶴を捧げに行ったクォンさんが、「同じ被爆者なのに、同じ人間なのに、どうして韓国人被爆者の慰霊碑だけが平和公園の外にあるのだろう」と疑問を投げかけ、ものすごくショックを受けていた姿が今も忘れられません。その後、韓国人原爆犠牲者慰霊碑は、関係者の悲願でもあった公園内への移設が1999年に果たされたそうです。
被爆者運動や核兵器廃絶への取り組みの中で、様々な課題が今もたくさんあることと思いますが、30年というスパンの中で物事を見た時に、30年前には考えられなかったことが形となっていることもあり、諦めずに声を上げ続けてこられた方々の不断の努力と信念を思う時、深い感謝と共に希望を感じます。そして、日韓の両首脳が慰霊碑に献花する姿に歴史の流れを感じながら、被爆者援護法による援護が届かない北朝鮮の被爆者の方々は今どうしておられるのだろうと案じずにはいられませんでした。
あの日、きのこ雲の下にいたのは日本人だけではなく、植民地統治された韓国・朝鮮人の方々や中国大陸や台湾からの人々、インドネシアなどからの南方留学生、アメリカ人捕虜、ドイツ人牧師や、亡命していたロシア人家族の方などもおられたことを忘れはならないと思います。
この秋、10/21(土)広島「八丁座」にて、ドキュメンタリー映画『かけはし』を再上映していただけることになりました。
第2作目のドキュメンタリー映画『かけはし』は、原爆をテーマにした作品ではありませんが、私の中では初プロデュース映画『アオギリにたくして』に託した想いともつながっています。
🍀ドキュメンタリー映画『かけはし』
https://kakehashi-movie.net /
戦争のない、核兵器のない世界をつくる上において、近隣諸国との信頼と友好を深めることこそ何よりの安全保障でもあります。しかし、この夏で戦後78年という歳月が流れても、様々な問題が残されている現実は、今なお残る戦争の深い傷跡のあらわれでもあることを思う時、憎しみの連鎖をくい止め、絶対に二度と戦争を起こしてはならないと強く思います。
たとえ個人にできることは限られているとしても、国を超えた人と人の心のつながりを大切にしながら、交流の輪を絶やすことなく、世界の平和を祈りながら、少しでも自分たちに出来ることは何かを考えながら、取り組み続けていきたいと思います。
懸け橋となる世界からの留学生を応援しながら、そして、日韓友好と両国と世界の平和を願いながら、一つ一つの上映会に思いを込めて「かけはし」上映の輪を広げていきたいと思います。どうぞ皆様のご支援・ご協力を今後とも何卒よろしくお願い申し上げます🙏
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