あれから10年…。
あの時に感じた言葉にならない様々な思いの中から、映画『アオギリにたくして』が生まれました。もし今、この映画のモデルとなった沼田鈴子さんが生きておられたら、何を感じ、何とおっしゃるだろう…といつも考えながら…
3・11の1週間後、「アオギリの語り部」と呼ばれた被爆者の故・沼田鈴子さんに会うために広島を訪れました。前年に行われた米国ワシントンの財団法人カーネギー地球物理学研究所での被爆アオギリ2世植樹とピースライブのご報告をするためでした。
アメリカまで同行取材してくださった元毎日新聞記者の石塚淳子さんとギタリストの伊藤茂利さんと3人で沼田さんに会いに行きました。石塚記者が涙を流しながら取材していた時の様子を今も忘れられません。
「私の心は桜島のように燃えている。100歳まで生きて、核兵器なき世界の道筋を見届けるまで死ねない」と熱く語っていた沼田鈴子さん。けれど、ずっと心配していたことがとうとう現実に起きてしまった3・11へのショックで、言葉にならないほどの悲しみと強烈な危機感を感じていることが伝わってきました。被災地の方々を案じながら、特に福島原発のことをとても心配されていました。
「死ぬのは簡単なんよ。生きて伝えないと…」
ヒバクシャとして、語り部として、今伝えなければという沼田さんの覚悟を感じた言葉が、ずっとリフレインしていました。
3・11の4カ月後、沼田鈴子さんは永眠されました。
沼田鈴子さんの前半生をモデルに描いた映画『アオギリにたくして』の冒頭の福島のシーンは、東日本大震災から2年目の3月11日に福島を訪れ撮影しました。3・11が起きた時、病院に入院していた沼田さんは、「早く退院して自分で情報を収集したいので、病院を出てきてしまった」と語っていました。そのシーンが映画『アオギリにたくして』の冒頭で描かれています。
映画づくりの中での様々な経験を通して、沼田鈴子さんがどんな思いで活動を続けてこられたかをより深く感じながら、完成した映画の上映で被災地を訪れ、その地に植えられていた被爆アオギリと出会う中で、「いのちの尊さ」「平和の大切さ」への思いをより一層深く感じています。
東日本大震災から10年…
亡くなられた方々のご冥福と共に、今も深い悲しみや不安を抱えておられる方々の心に希望の光が灯されますよう心からお祈り申し上げます。
あの震災から何を学び、何を伝え、これからの未来をどう考えていくべきなのか。
これまでの10年を振り返り、これからの10年を思い描きなら…。
与えられた限りあるいのちの中で、私たちに出来ることは何かを自問自答する日々です。
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