広島の平和記念公園の被爆アオギリの下で体験証言を続けた被爆者の沼田鈴子さんが、昨日(2011年7月12日)お亡くなりになりました。
私はその日、広島女学院大学での公演の後、8月6日にリリース予定のCD記者会見のため広島市役所へ行く途中、たまたま沼田鈴子さんが被爆された元広島逓信局の前を通りがかり、同行してくださっているプロデューサーでギタリストの伊藤茂利さんとしばらくそこで時を過ごしていました。
その後、午後4時からの記者会見場が始まる直前に沼田さんが亡くなられたことを知りました。
私が動揺するのを関係者の方々が心配してくださり、公演が終わるまで知らせずに待っていて下さったとのことでした。
沼田鈴子さんと初めてお会いしたのは、21歳の時。今から25年以上前のことでした。
アメリカの学校で原爆映画の上映をし被爆者のメッセージを伝える日米協力草の根のボランティア「ネバー・アゲイン・キャンペーン」の第一期生として渡米することになりました。持っていく記録映画「にんげんをかえせ」に被写体として登場されている沼田鈴子さんにはじめてお会いしてお話を伺った時の事は今でも鮮明に覚えています。
その後、広島を訪れる度に、沼田さんとアオギリの木の下で待ち合わせをしてお話をさせていただいていましたが、2年前、ちょうど私が1000回ピースライブを目指してスタートした時、沼田さんにご連絡をした際には、アオギリの木の下ではなく、ケアホームのお部屋に伺わせていただきました。
東京にもどってしばらくすると、小さくてかわいい被爆アオギリ3世の苗が広島から届きました。そして、その小さな被爆アオギリの苗を見ながら沼田さんに捧げる曲「アオギリにたくして」が生まれました。
被爆体験や戦争体験のない私自身が、同じく体験のない世代にヒロシマ・ナガサキを伝えていくうえで、不安になったり思い悩んだりした時、いつも力を与えて下さったのが沼田さんでした。沼田さんの存在は、「伝えなければ」という気負いを取り除き、「伝えたい」という思いにさせてくだいました。
今回のCDには、昨年、沼田さんのお部屋で演奏させていただいた「アオギリにたくして」を再現する形で、ギターと歌だけのシンプルなものが収録されています。沼田さんが元気になったら聴いてほしいと思いながらレコーディングした曲でした。
沼田さんに最後にお目にかかったのは、5月29日。制作中の「アオギリにたくして」のDVDの中で、沼田鈴子さんがヴォイスメッセージをくださることになり、お見舞いに伺わせていただいた時でした。
昨年1000回ライブのご報告に伺った際に、「私の心は桜島のように燃えている」とおっしゃった沼田さんの言葉が忘れられません。
今年の4月に伺った際には、「福島原発の事が心配で、そのことを考えるだけで血圧が上がってしまう」とおっしゃりながら、放射能で苦しむ人々がまたうまれてしまう事を嘆かれていました。
入退院を繰り返されながらも、まだまだ伝えたいことがいっぱいあった沼田さん・・・。
一カ月前、最後に沼田さんと、お話させていただいた時は、語り部のイメージより一人の優しいおばあちゃんのようでした。「一番大切なのは優しい心」みんなに伝えたいことは「優しい心を持って生きてほしい」。アオギリの苗を見ながら「かわいいね。スクスク大きくなるんよ」と嬉しそうに笑う沼田さんを撮影するカメラマンの井手君と最後に握手を交わした沼田さんは、ずっとずっと井手君の離さずに握りしめていました。
昨夜、東京に戻る前に、広島でのコーディネイトをしてくださりホームステイさせていただいている立花ご夫妻と伊藤茂利さんと一緒に沼田さんに会わせていただきました。安らかに眠る沼田さんの側にしばらく寄り添わせていただき、棺に入る前の沼田さんに最期のお別れができたことに心より感謝いたします。
最後まで、死に向かうのではなく
生きて、生きて、生きて、生きて・・・
平和を願い、平和を祈り、平和の大切さを伝え続けて下さった沼田さん。
その存在は愛そものでした
みんなの心の中に沼田さんはずっと生き続けています。
沼田さんの蒔いた平和の種が人々の心に育ち世界に広がっています。
沼田さん、これからもずっと天国から見守っていてください。
▲石塚淳子さんにより撮影&制作された作品です。
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